● スタートは「なぜ人は勉強するのか」

 市川伸一先生が「学習動機の二要因モデル」を開発し始めた契機は、その意味で面白い。マクレガーのように、実にストレートな問だ。やる気が問題になったとき、大学に入りたての学生に、「人はなぜ勉強すると思うか」、「あなたはなぜ高校まで勉強してきたのか」と二通りの問いかけから始めた点だ。学生の生の声から持論を見つけ、それにきちんと尺度をつくって、六次元の妥当性を確認した。ポイントは、学生は勉学意欲について自分の言葉で語れるし、その言葉が集まってきたら、それを学者と同じように整理もできる。これはすごいことだ。
 最初は、生で集めたデータも、内発的動機づけ、外発的動機づけや欲求階層性の理論など、それまでの心理学の枠組みにうまく乗るかどうかわからなかったそうだ。そして裏付けを求めるために質問紙をつくって、質問票で六次元がきちんと分離するか確認していった。市川先生の研究チームだけではなくて、学生がソートしても、六つの山になった。

● 二要因モデルの構築

 改めてどう構造化ができるのか考え、軸に名前をつけて空間のなかに配置することを考えた。一次元にうまく乗せるのではなく、二次元にすることを考えた。その結果、「二要因」が出てきた。
 さらに、従来の内発、外発のような理論もうまく説明できなくてはいけない。そこで、それを斜めの軸にし、斜めの一次元で説明できないものを二次元に展開した。
 学習動機を分類してみると、次の六つのタイプになることがわかった。

「学習動機の二要因モデル」の図

① 充実志向(重要性・大、功利性・小)
  ・・・学習自体が楽しいから
② 訓練志向(重要性・大、効率性・中)
  ・・・知力をきたえるために
③ 実用志向(重要性・大、功利性・大)
  ・・・仕事や生活に活かすために
④ 関係志向(重要性・小、功利性・小)
  ・・・他者につられて
⑤ 自尊志向(重要性・小、功利性・中)
  ・・・プライドや競争心から
⑥ 報酬志向(重要性・小、功利性・大)
  ・・・報酬を得る手段として

 ⑥報酬志向は「外的動機づけ」の典型で、①充実志向は「内的動機づけ」の典型である。これらの二つの軸が対角線上になるところが興味深い。
 残りの②訓練志向、③実用志向、④関係志向、⑤自尊志向の四つのタイプは、伝統的な動機づけ理論で説明しにくい。それで新しい「二要因モデル」を提唱することになった。
 そして「学習内容の重要性」を縦軸、「学習の功利性」を横軸として、二次元の座標のうえに、六つのタイプの学習動機を位置づけた。