● オバマ大統領の登場
次に別の観点から検討してみよう。今年(2009)、アメリカ合衆国でオバマ大統領が就任した。これまでの政治・経済、グローバルな問題、文明の問題の波から考えると、昔は想像もできなかったことも多い。「黒い白鳥」が見つかったのに似ている。一年前を振り返りながら就任演説などを例にとりながら、もういちど考えてみよう。
人びとはオバマを黒人大統領と呼ぶ。だが考えてみれば、大統領は黒人ではなく、黒人と白人のハーフである。それなのになぜ黒人になるのか。
これまで世界の歴史を見る視点は、黒か白かの「二項対立」であった。そのためオバマ大統領はすぐ黒人に入れられてしまう。ハーフだけれど、人種的にはアフリカのいちばん差別を受けた人である。
大統領の就任の演説で、次のように述べている。
-- 60年足らず前には、地元のレストランで(人種差別によって)食事をさせてもらえなかったかもしれない父親の子どもが、(大統領就任の)神聖な宣誓をするために、あなたたちの前に立っている。--
この変化自体は、アメリカの偉大さである。しかし、これはアメリカ単独だけで起こったわけではない。世界のさまざまな波によって、結局、アメリカが選択したものだ。そして、マイノリティーとして疎外された人たちに、新しい道が開けたのだ。
建国時代以来、大統領はアングロサクソン系で新教徒であるアメリカ人、すなわち、ワスプ(WASP)でなければならない、というアメリカのパラダイムは完全に変わってしまった。
もともと新しい宗教を求めてアメリカにやって来たのは、新教徒であった。ところが、あとからアメリカにやって来た旧教徒、カトリック教徒が、貧しい人、マイノリティーの人たちの上に立ち、進歩的なものを求めることになった。ケネディ大統領の当選によって、このアイロニーの構造が出現し、世界の人びとは驚いた。
● オバマ大統領の政策と戦略
オバマ大統領の政策と戦略は、就任演説にもよく現われている。「これではなくてあれだ」という not A but Bの「二項対立」だけでなく、not only A but B の「これだけでなく、あれも」という視点を踏まえている。
たとえば、大統領はこう発言している。
-- アメリカが、ファシズム(ナチ)と共産主義に勝つことができたのは、ミサイルや戦車などの軍事力だけでなく、強固な同盟や不屈の信念など、アメリカの文化そのものが、結局、勝利に導いたものだ。--
国家の安全保障問題も理想的なものだけでなく、現実的なものも考え、それまでの安全保障を乗り越えるものを構想しなければならない、というわけである。
それは終始一貫してオバマの演説にそのまま現れている。「新しい職務をつくるだけではなく」と、not only A but Bの、Bの次にくるものとして「成長の新たな基礎を固めるために努力する」と語っている。
Change とか、Yes, we canという言葉が、就任演説でも出てくるものと、人びとはみんな思った。だが、出てこなかった。あれは選挙のキャンペーンと大統領としてのキャンペーンが違っていることを示している。
こういう点を考えていくと、アメリカは急激に変える力もないし、変えることもできない、ことが見えてくる。
