●「文明」の潮流を読め
--第一の視点:地政学から
では、どうしたらよいのか? 私がよく申し上げているように、これは文明の問題であり、アメリカだけの問題ではない。それを解くには、三つの視点から大きな流れを読まなければならない。第一の視点は、こうだ。(1)サー・ハルフォード・J・マッキンダー(Sir Halford John Mackinder: 1861-1947)の地政学理論に出てくるが、1000年以上世界を最初に支配したのはジンギスカンとかアレクサンドロスなど、馬に乗った人たちであった。つまり、陸地を制した(ランドパワー)の人たちであった。
(2)そのつぎに、台頭してきたのが、イギリスを中心にした海洋国パワー(シーパワー)の人たちであった。海洋国パワーは大西洋を渡り、大きな島であるアメリカに移動してくる。そこから太平洋を渡り日本、韓国、中国を経由しロシアからヨーロッパに向かい、ドーバー海峡まで達する。これが海洋国パワーの終焉であった。 この途中で、海洋国パワーでは馬は船に取り換えられ、大砲も馬が運ぶものではなくなる。
(3)デジタル時代になると、コミュニケーションのロールが違ってくる。距離というものがあまり問題にならないので、かつての陸地のコミュニケーション・ハンディキャップもなくなっていく。
アナログの面ではあまり変わりないが、デジタルの面では海の海路が有利であったが、それも大きなプレミアムにはならなくなった。
海洋パワーのシーパワーは変化しないまま、陸地のランドパワーでは、インドの内陸、大陸の中国の主として沿岸地域、そしてロシアまたは南米の海洋国以外の文化圏で変化が起こった。
かつて日本は海洋国家の最後の終着点のように見られた時代もあったが、今回改めて韓国を中心として見ると、かつて中国と北朝鮮と個々の海洋勢力はイデオロギーで結ばれていたが、地政学的にはこの分断線が大陸と海洋の一つのつなぎ目になっている。
● ウィン・ウィンの方向に進むには?
ここで人類が発見しなければならない重要なことがある。それは、これまでの大陸パワーと海洋パワーという、地政学的な視点からパラダイムを変えて、双方が利益にあずかれる新しいウィン・ウィン(win-win)の状況に、どうしたら変革できるのか、ということだ。つまり、かつての海洋パワーと比べて、産業とか情報社会の面で遅れをとってきた大陸パワーの中国・インド・ロシアなどが、新しい波に乗り、ともに平和を構築していけるかどうかである。簡単な例を挙げれば、
-- 夏の夜に、父親が暑いからドアを開けなさいと、子どもにいう。子どもがドアを開けると、こんどは母親が入ってきて、蚊が入るからドアを閉めなさい、という。
この二人の言葉をどう処理したらよいのか。二つの選択肢のなかではどちらを選択しても解決できない。ここでは、風を通すが虫の入らない網戸を設置することだ。
両方を同時に乗り越えるには、矛盾するものを新しい想像力(イマジネーション)とクリエイティブな施策によってはじめて乗り越えることができる。それが私たちに与えられた解決策のひとつになる。
これは、昔からの「マルクス主義か資本主義か」という「二項対立」では解決できない。単に両者を折衷して単に混合しただけでも無理で、クリエイティブな新しい施策が必要になってくる。
これまで何回か例に挙げたことがあるが、陸軍と海軍の軍隊を組み合わせても海兵隊ができるわけではない。真の海兵隊につくるには、陸軍よりももっと厳しい、海軍よりももっと厳しい、第三の組織をつくり、強力な戦い方ができないとないと無理だ。
