● リンカーン大統領に倣った戦略
リンカーン大統領は、南北戦争の南北軍をいかに統合するか誓った。戦争にまで発展してしまった意識的なパワーを、どのようにひとつのユニオンにまとめていくか、と心を砕いた。オバマ大統領は、こうしたリンカーン大統領と同じ運命をになっている。だからこそオバマはなにごともリンカーンに倣ったのだ。
選挙のときには同じルートで入ってきたし、リンカーンが使用したバイブルを借りて宣誓を行っている。
さらに、シカゴにおける大統領就任受諾演説でも、of the people, by the people, for the people と、リンカーン大統領がゲティスバーグの演説で呼びかけたのと同じレトリックを使っている。
南も北もみんな包容するという意味で、citizenと呼ばずに peopleといった。もしcivil戦争だったら市民という言葉がつき、それは国家体制の戦争になる。ここでは、ただの人間という意味で peopleを使っている。さらにユニオン(Union)という言葉を使わないで、ネイション(Nation)という言葉を使い、南の人と北の人をいかに統合するか、という戦略をとった。
●「二項対立」を乗り越えるには……。
オバマ大統領の演説に見る限り、なにか「融合しよう」という姿勢が見えてくる。ところが、この「融合する」あるいは「混合する」をアメリカのモデルにするときには、「二項対立」だけで乗り越えるのは難しい。日本の政治でも、今年(2009)の9月に、自由民主党から民主党への「政権交代」が行われ、新しい「鳩山政権」が誕生した。とはいえ、単一の政党がそのまま代わって、政権につくのではなく、社民党、国民新党からも閣僚を迎え、連立内閣を発足させたことは、皆さんもよくご存知のはずだ。
かつて日本では、中産階級が主流でなく、労働者が苦労していた時代があった。初期の社会主義の労働者の悲惨な生活を告発した「蟹工船」は、戦前の『日本文学全集』ではいつも除外されていた。ところが、最近では若い者の間でこれがベストセラーになり、さらに映画化までされるという変化が起こっている。
視点を換えれば、国家主義または政府そのもの自体が昔とは変わってしまっているのだ。現代社会では、個人のブログ、個人のメディアは国境を越え、自由に選択できる。つまり、今まで積もり積もってきたもののために、昔に戻れない状況になっている。
