● 情報知識社会の穴 --「黒い白鳥」は存在する--
世界の金融工学研究者や格付け企業などが、「理論」や「データ」などによって、素晴らしいシステムをデータ化しながら、1年前(2008)には「大不況」の襲来がわかっていなかった。あの大不況が爆発する可能性があると予想されながら、モラルハザードの問題とか、サブプライムに起こるリスクの回避など、情報社会で情報の届かないところで危険な事態が発生したのだ。2007年に『黒い白鳥』(Black Swan)を書いたナーシム・ニコラス・タレブは、こう指摘している。
-- 昔、ヨーロッパでは白鳥(swan)はすべて白いと考えられ、この理論は否定できないものだと思われていた。ところが、オーストラリアで「黒い白鳥」が発見され、この理論はいっきに崩れてしまった。
社会や未来に関する理論はみな、この「黒い白鳥」という不測の事態の発生によって崩壊する可能性がある。--
つまり、金融システムとか情報システムもある瞬間に、稼動しなくなる場合もある、というのだ。
● グローバリズムの危機
もうひとつ視点に入れておかなければいけない。今は、グローバリズムの危機の時代だという点である。ただの政治の危機、経済の危機だけではない。これまではスーパーパワーをもったアメリカが、一国中心で、世界の4.5%の人口で世界のエナジーの4分の1を消費してきた。その体制では許せなくなったのである。
これまでのように、スーパーパワーをもってイラクに侵入するようなこともありえない。今まで警察国家または世界の調停者として、冷戦以後の世界のなかで、なにか問題が起これば、政治も経済もアメリカに頼ってきた。今はそれがなくなった。つまり、無極化してしまったのだ。
それでは、こうした状況は一極化のアメリカの時代よりも幸福なのか。恐ろしい不幸が起こる可能性がある。北朝鮮、アフガニスタン、イスラエルなどではいまだに問題は解決していない。
昔の体制よりも、新しい世界の体制では、極部地域でさらに悪いことが起きないとも限らない。