かねてからで対談したい方のお一人は、河合隼雄先生でした。でも、私にとって先生は敬愛する大きな存在でしたので、半ば無理だろうと諦めていました。
 実は先生は、大学院で指導されたお弟子さんで臨床心理学者になった人とは対談されたことがありません。あまりにも関係が濃すぎる、というのが理由だそうです。
 私は臨床心理学に関心をもっていますが、経営学という別の分野にいます。の編集委員の三木敦雄さんから、それほど尊敬しているなら、気持ちを直接ぶつけてみたらと後押しされて、思い切って手紙を差し上げました。すぐに快諾のご返事をいただき、国際日本文化研究センター所長室で対談が実現しました。1999年3月18日、河合隼雄先生が文化庁長官に就任される3年ほどまえの「かくしゃく」とされていた時期です。

 

河合隼雄先生の伝記

 昨年、先生の伝記『河合隼雄―心理療法家の誕生』(大塚信一著、トランスビュー、2009年)が出版されました。そこには、チューリッヒのユング研究所で東洋人として2人目、日本人として最初のユング派の有資格者になった先生の伝記的資料が豊富に描かれています。
 先生は帰国後、日本でユング心理学を誤解なく普及させる使命感から、処女作『ユング心理学入門』(培風館、1967年)を上梓されます。その何冊か後の本を担当したのが、当時岩波書店の超若手編集者だった大塚信一さんで、この伝記の著者です。
 大塚信一さんは、河合先生の初めての岩波新書を編集担当して以来、あらゆるキャリアの段階で先生と交流を続け、岩波書店社長も勤めたあとも、自ら著者になって、この碩学の書籍をつぎつぎに紹介しています。