最後に

 河合先生のユング派の資格論文が、とうとう日本語訳で出版されました。河合俊雄監訳、河合隼雄著『日本神話と心の構造』(岩波書店、2009年)です。法外に高い価格の本ではないので、多くの人に読んでほしいと思います。
 因みに、監訳の河合俊雄さんは、先生のご子息です。俊雄さんも.ユング派分析家資格取得者で、現職は京都大学こころの未来研究センター教授です。
 この論文では、日本神話を日本語以外の言語で、深いレベルで語っています。ほとんどの国の神話では、太陽は男性神で、月は女性神です。
 ところが、アマテラスが「太陽の女神」というのは珍しいというので、これを究めるべきだと、カール・ケレーニ(1897年―1973年。神話学者、宗教史学者。ユング研究所主任研究員、ユングとの共著『神話学入門』がある)の激励も受けて、『古事記』などをひもとき論述されたものです。
 あとあと『母性社会の日本の病理』(中央公論社、1976年)を書かれる原点がそこにあると思いますが、外国で日本の神話にまつわる文献が少ないなかで、ユング派の資格論文の題材に選んでいるのは驚きです。

 神戸大学の私の指導するゼミでも、最近3、4年は、河合先生の著書を読むようになりました。ゼミの指導教官は、ほとんどの場合、自身が一番影響を受けている先生の本をゼミで読むのですが、私は、経営学のゼミで河合先生の本を読むということに遠慮があり、読む書籍に入れていませんでした。
 しかし、河合先生が亡くなられたことがとても残念で、ゼミで河合隼雄著『神話の心理学』(大和書房、2006年)を読むようになったのです。学生の反応もよく、さらに、うれしいことに、学生が読み終わって家においておいたら、お母さんも読んで「よい本だった」という感想を寄せた学生もおります。これからもゼミで読み続けようと思っています。

(2010年3月5日 神戸大学金井壽宏研究室で収録)
(担当:寺本隆志)



profile
金井先生
金井 壽宏(かない・としひろ)
神戸大学大学院経営学研究科教授、神戸大学経営学部長、大学院経営学研究科長、Ph.D.(マサチューセッツ工科大学)、神戸大学博士(経営学)。
専攻 経営管理・経営行動科学。
1978年京都大学教育学部卒業、神戸大学経営学部助教授を経て、1994年同教授。2010年より現職。
主な著書
『危機の時代の「やる気」学』ソフトバンクリエイティブ、2009年
『働くみんなのモチベーション論』NTT出版、2006年
『リーダーシップ入門』日経文庫、2005年
『キャリア・デザイン・ガイド』白桃書房、2003年
『働くひとのためのキャリア・デザイン』PHP研究所、2002年
『仕事で「一皮むける」』光文社新書、2002年
『会社の元気は人事がつくる』日本経団連出版,2002年(高橋潔他と共著)
『中年力マネジメント―働き方ニューステップ』創元社、1999年
『創造するミドル』有斐閣、1994年(沼上幹、米倉誠一郎と共著)
『ニューウエーブ・マネジメント』創元社、1993年
主な訳書
『人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則』監訳、英治出版、2009年
『ワーク・モティベーション』監訳、NTT出版、2009年
『キャリア・アンカー』訳書、白桃書房、2003年
など