音楽も企業活動も人間生きていることすべてが心の動き

■ 金井 アンサンブルでは、リズムセクションを担当している人、メロディをつくる楽器や、和音をつくる楽器もそれぞれにリズムがあります。それを繋いでいく役割は非常に興味深いと思います。
 元気づけという意味で、ペッカーさんが最近注力されている、音楽による 「メンタルヘルスケア」についてお伺いしたいと思います。例えば会社の場で、音楽と心理学と組織理論を繋げるために、一人ではなく、みんなで一緒にやる良さや、あるいは一人になる不安を、どういう風にリズムを使って体現されているのか、教えて頂けますか?

■ ペッカー 音楽にしても企業活動にしても、生きていることすべてが心の動きなのです。心の動きがあったから、僕がこの仕事を引受けここに来て、金井さんがいて、そこで録音デバイスを回している方がいる。企業における活動や関係も、心の動きで横に繋げたら、分かり合えるのではないかと思ったのです。
 例えば音楽は、構成メンバーの気持ちが一つにならなければアンサンブルにはなりません。企業のプロジェクト等も同じことですね。気持ちが一つという点では全く同じです。そうやって音楽での考え方を横滑りさせて企業に置き換えるという、新しい考え方を勧めています。
 要するに、結局心の動きは同じなので、「企業活動のこういうところを音楽は、象徴していませんか」という話からだと思う。
 例えば、机を叩いてリズムを取ってもらえますか(叩く)。今、歳も違えば初めて会った二人が、同じテンポを共有していますよね。つぎに、金井さん一人でやってくれますか。
 ワンツースリーフォー!(ペッカー氏が止まる。金井教授が一人で叩いている。)
 いきなり一人にさせられると、みんなに自分のビートが分かると同時に、これで良いのかなと不安が出てきます。では、僕が入ります。入った瞬間にアンサンブルの気持ち良さとか、仲間意識が生まれると思います。
 ワンツースリーフォー(二人で叩く)

■ 金井 すごい!

■ ペッカー 一人になったときの金井さんは、自我を確立しようとしているはずです。せっかくペッカーとグルーブを共有していて、テンポを共有してるから、止ったり揺れたりしないで、一人でもちゃんとしなきゃいけないと。そうして僕が入ったら一緒にやっているという安心感があったでしょう。仲間意識を感じたのではないでしょうか。少しだけ心の窓が開きませんでしたか?
 それと同じことを企業でもやれるのではないかと思ったのです。例えば、プロジェクトチームを作ると、「このチームで本当にやっていけるか」と不安に思う人が一人はいると思います。組織論でいうところの、「タックマンモデル(チームが形成されてから機能するまでの4つのステップで表したモデル)」と同じです。それはバンドの中でもコンサートでも行われている。生活に置き換えると、スーパーに買い物に行ったときでさえそれは起こるわけです。それは全部心の動きだから。“心の動き”に注目すると、企業活動も音楽活動も、能の世界も幼稚園の世界も同じではないでしょうか。それを理解して頂くのです。