印象に残っているミュージシャン

■ 金井 様々なミュージシャンとの出会いに興味がありますが、印象に残っているミュージシャン、印象に残っているシンガーを教えて頂けますか。

■ ペッカー まずはMISIAさんです。僕たちスタジオミュージシャンの仕事は、売り出すことを目的に集められます。アレンジャーが、その曲に合うプレーヤーを選ぶため、1曲ずつメンバーが違うのです。
 ところが、売り出すまでの仕事だったはずが、MISIAの7枚目のシングル「Everything」(2000年10月25日発売)が、100万枚の売上を突破して加速度的に売れているツアーに参加できたんです。そこで、ミリオン歌手を見ているお客さんの目を見てしまったんです。これはもう女王様を崇拝する家来というか国民のようでした。今現実にその曲が日本に浸透して、ドラマの主題曲にも選ばれるなど旬になった。シンガーが旬になればツアーには別のミュージシャンを選ぶことが多いのですが、MISIAの事務所は僕らを集めたのです。「作り上げる」ことから「乗っかる」ことは初めてだったので、すごく印象的でした。
 あとは、ギタリストの渡辺香津美さん率いる「KYLYN(キリン)※」が印象的でした。

※KYLYN
1979年、ギタリスト渡辺香津美を中心として結成されたプロジェクト。
アルバム「KYLYN」発表、79年5~8月に20数本のライブを行い解散した。
メンバーは、
 渡辺香津美(ギター)、坂本龍一(キーボード)、益田幹夫(エレピアノ)、
 矢野顕子(アコースティック・ピアノ)、小原礼(ベース)、村上秀一(ドラムス)、
 高橋ユキヒロ(ドラムス)、ぺッカー(パーカッション)、向井滋春(トロンボーン)、
 本田俊之(アルトサックス)、清水靖晃(サックス)


■ 金井 KYLYN LIVEは、今聴いても強烈ですよね。

■ ペッカー 教授(坂本龍一)、アッコちゃん(矢野顕子)、ポンタ(村上秀一)に小原くん(小原礼)がいて、パーカッションは僕がやっていた、渡辺香津美と坂本龍一のバンドです。80年代にこれから何かが変わる感覚というのをそのツアーで目撃した。坂本龍一さんと会ったのはその2~3年前です。これからテクノの時代がくるというときに、ツアーで地方に行くと、教授のところに若者が訪ねて来る。その若者はテクノカット(1980年代に流行した、もみあげを鋭角に剃り整え、襟足を刈り上げた髪型。Y.M.O.がしたことからそう呼ばれる)なわけですよ。ジャズギター小僧は香津美くんに、ドラマーを目指している若者はポンタに、ラテンを目指している人は僕に、会いにくる。
 ツアーはやっていましたが、全く売れていなくて、「KYLYN(キリン)」というバンドを知っていること自体ものすごくマニアックなのです。それなのに信奉者がいて、まったく新しい分野の頂点にいる人たちが結集しているバンドを見に来ているという感じがありました。

■ 金井 すべて詰まるところ関係性の話にいきますね。

■ ペッカー そうです。文化が変わっていく瞬間を目撃できた。マイナスな話ですが、もちろん企業の活動でも、突然ショックなことが起こり、どこにいていいか分からないようになっている。でも変化の瞬間をみんな目撃している。北東アジアも変化の最中で、どうなるか危ないのではと思いながらも、みんなそれを見ている。僕は音楽の分野で、時代の変化を見てしまった。しかもそれは受け手ではなく、文化を変革している発信者側に入れてもらったことが嬉しかったですね。

鼓舞、鼓動・・・勇気を出す・感動を与える、そういうことがリズムでできる

■ 金井 エディンバラ(スコットランド・首都)に留学していた友人が、バグパイプを買っていました。バグパイプは軍事パレードにも使われ、どんな行進でも、実際の戦闘場面でも先頭に立っていたそうです。軍隊の場合は倒れてでも先頭を歩き、みんなを鼓舞します。だからバグパイプは唯一、武器登録されている楽器らしいですね。

■ ペッカー たぶんアレキサンダー大王の頃はティンパニーも武器ですね。今おっしゃった“鼓舞”という言葉、これは太鼓なのです。
 未だにアフリカの祭りで残っているのは、太鼓を打ち鳴らして、戦士の士気をリズムで鼓舞して勢いをつけ、戦場へ行く。それは死への旅立ちなのです。だから、たかが音楽、たかがリズムとは言えないんですね。

■ 金井 アメリカンフットボールのマーチングバンドもそうですね。

■ ペッカー ニュージーランド代表のオールブラックスというラグビーチームが、試合前に、先住民族マオリ族の伝統的な出陣の儀式「ハカ」を踊ります。入れ墨をして、鼓舞していく。その古代からの遺産として伝達されている原理があるのであれば、企業でも、新製品発表会などのキックオフをもっとリズムや音楽で鼓舞してはいかがでしょうか。
 みんなが集まってエイエイオーという掛け声じゃなく、もっと太鼓でリズムをつくり、その場を盛り上げる。太鼓の音がしていると、自然に人が集まる。ドラムコールといって、ドラムで人を呼ぶのです。
 だから僕は、太鼓を趣味の範疇の楽器として扱わずに、ビジネスの道具として見直して頂けないかという提案を企業にさせてもらっています。動いている人に太鼓のバイブレーションを当てて、心に直接ハートビート(心の鼓動)のリズムを送ることで、勇気が出たり感動を与えることができるのであれば、ぜひ会社として使って頂きたい。