ぶれない軸がGEを動かす

  私は本物のGE社員は、GEらしさの実践にとどまっていてはいけないのだと考えています。本当の貢献は、GEをより良い会社に変えていくことにあるのだと思います。世の中の変化を読み、場合によっては現状を否定してでも、方向性を見出していくことが大切です。そのためには、GEらしさを保ちながら、しっかりとした自分の考えを持たなければならない。そして、会社が今やろうとしていることは正しいのかという観点を常に持って、違うと思ったら声を出すことが大切なのです。そういった考えで、いま日本では軸を持つ、Philosophy(自分の哲学)を持つ、自分のものの見方を持つために独自のトレーニングを日本で実施しています。

真のリーダー育成のために

 本物のリーダーを日本から出すために、15~20人ぐらいのトップクラスの人材を一年間かけて育成しています。それが「J-LEAP」です。30代の後半から40過ぎぐらいの部長クラスを対象にしたプログラムです。実は金井先生と野田智義さん(特定非営利活動法人アイ・エス・エル 代表)の、『リーダーシップの旅――見えないものを見る』(光文社新書刊)を最初に読んでもらい、あなたたちの「リーダーシップの旅」は始まっているのかと問いかけることからスタートします。基本的な経営知識を身につけるためのクラスルームトレーニングを行い、リーダー育成のカギは気付きにあるという観点から、プロジェクトの実践とそのレビューなど様々な機会で「恥」をかく体験をしてもらいます。また、自分のものの考え方の再認識のため、軸を持つためのトレーニングを行っていきます。毎月一人一時間、私と1対1で「軸談義」をすることによって、自分が大切にしていることを見つけてもらうようにしているのです。
 GEではこれまでも、ニューヨーク州郊外にある、クロトンビル研修所で、トップクラスのリーダーを対象に、3週間のトレーニングをやってきました。非常に効果的にリーダーを育成してきたと思うのですが、じっくり1年かけて人を育てるという考え方はGEでもベストプラクティスとなって、今では多くの国で「LEAP」 が展開されています。

HRプロフェッショナルの育成

 私たちは何のために人事やっているのでしょうか。私は、人事とは人のやる気で会社を差別化する部門と考えています。ルールや制度をつくることも時には必要ですが、なんといっても大切なのは生身の人間を悩みから救い、やる気に火をつけ、組織を一つの方向に向けていくことにあると考えています。人間は千差万別で、いろんな方がいらっしゃる。人を扱っている側の人事が、様々な人をよく理解し、いろいろな知恵を持っていないと良いアドバイスなんてできようがない。制度やルールがどうなっているかとか、税法や組織論に関することには、割と簡単に応えられますが、生身の苦しんでいる人間を前にしたときに、ポンと良いアドバイスはなかなかできない。自分のボスが悩んでいるときに助けてあげることができない。そんなHRでは意味がないと考えています。そのことができるようになるのは簡単ではないのですが、私はビジネスを理解することは当然のこととして、豊かな教養を持って、人間理解の基本を身につけることだと考えています。また、物事を大きく見る力も必要です。よく笑われるのですが、私は人を知るには動物を勉強することも大切だといっています。たとえばチンパンジーと人間は何が違うかと考えることによって、物事を言葉として残していくことの重要性が分かります。
 日本のことを知ることも大切です。我々が相手にしている社員は日本人がほとんどです。日本人の奥深くまで理解していないと、人事は務まらない。しかし実際には、日本人の特徴とは何かが、よくわかっていない。だから、そういうことも育成の項目に入れています。
 そのうえで自分は何を大事にするのか、自分の軸は何なのかを知ることが大切です。私は人を理解するにはしっかりと自分を理解していることが大切だと気づきました。自分の立ち位置がはっきりしていることで、相手の状況がよくわかるのです。人事の基礎や経営の基礎を学び、教養を身につけ、自分の軸を見つけるためにHR STARSというプロジェクトを2010年の5月にスタートしたのですが、恐らく最低でも3年ぐらいやらないと、しっかりとした育成の成果は出てこないと思っています。